なぜなぜ分析は、トヨタ生産方式で著名な大野耐一さんが発案した現場改善の手法です。
大野さんは不具合の原因をあまりに短絡的に考える人が多いので、“せめて5段階くらいのレベルまで何故を繰り返し、原因を深掘りして考えよう:5Whys “, と提唱したのですが、原因追及の深掘りの仕方やなぜなぜ分析の論理構造などを、“なぜなぜ”の発案当時は、意識しておられなかったと思います。
そこで、“なぜなぜ”の仕方が自分勝手なやり方に陥り、せっかくの分析で真の原因(以下、真因と略します)に至らず、中途半端な結果に終わることが多くなるのでは、と思っております。
重要なポイントは次の3つです。
①TOP事象:不具合の事象(現象)を出来るだけ具体的・定量的に把握する。(②項の観察の重要性)
②なぜなぜ分析を展開するときは, 次の4つのプロセスに従う。
観察 → 推論 → 仮説 → 実証(検証):真の不具合を特定する4つのプロセス
観察 | 先ず、見ることが重要である。現場,現物を自らの五感を総動員して観察することにより, 不具合のTOP事象を具体的・定量的に表現することから“なぜなぜ“は始まる。 (観察の際、計測器の活用も重要である。例:非接触3D測定機、X線CTスキャナー 等々) |
推論 | 論理的に正確に思考することが必要である。但し、上述の観察によるデータ(現場・現物)に基づくこと(推論とは辞書の定義では、:事実をもとにして、未知の事柄をおしはかり論じること、とある。) ・事象の要因を推定するときは、下記の論理法則(why so?←→ So what?)に従うとよい。 |
仮説 | 推論に留まらず、仮説をたて( 或いは モデルを構築し;Model building),実証することで真因に行き着く。 |
実証 (検証) | 仮説は検証されなければならない。実験的手段等による検証:実証、が必要である。 |
(真因:真の要因(原因)とは、その要因を排除することで不具合の再発が0になるような要因のことである。
真因を特定することにより、品質欠陥0、ZD:Zero Defect,の実現が可能となる。)
・真因であることは仮説を検証するプロセスで確認することになります。
③なぜなぜの原因分析を深掘りしていくときは、その論理展開を、Why so? → So What? と問いかけることにより、上位・下位の論理関係を着実に確認しながら進めていく。(下図を参照方願います。)
・なぜなぜ分析の構造(上位・下位の論理的関係)の正しさは
“或る命題が真ならばその対偶も真である”, という論理学の命題によって保証されます。
参考)
・なぜなぜ分析上位→下位の論理展開を論理式で表すと、
$A \rightarrow B_{1} \bigcup B_{2} \bigcup\cdots \bigcup B_{n}$が成り立つならば、$\bar{B_{1}} \bigcap \bar{B_{2}} \bigcap\cdots \bigcap \bar{B_{n}} \rightarrow \bar{A}$ も成り立つ。
→;或る命題が真ならば、その対偶も真である。
平井そうけんのなぜなぜの理論的背景を1に述べましたが、実践にはTutor:指導者がいなければ大変です。
又、平井そうけんのなぜなぜ分析は原則、現場・現実に即した実践活動となりますが、オンライン会議による代替も、今後は重要になってくるものと考えております。具体的手順は次の通りです。
(前提条件) 現物・現場・現実に即して行う。
・現場の管理者・設計者・品管だけでなく、保全マンや作業者など多くの分野の参加者を集めて実施する
・問題点をお互いが共有することができるようにする
・不良の現品、図面を目の前にし、不良が発生した場所をQC工程図や作業要領書と照らし合わせて、よく観察する。
手順1 不具合のTOP事象を具体的・定量的に表現し、把握する。
・現場・現物・現実に即して不具合を出来るだけ、具体的・定量的に把握することが最初のステップとなります。
手順2 上述の方法論に基づき、原因の深掘りを真因に至るまで実施する。
・該当/非該当の判断が重要になってくるが,現場・現物で明らかな要因は原因の更なる深掘りは実施しない。(なぜなぜ分析を無意味に長大・複雑にせず,シンプルに短時間で合理的に行うことが肝要である。)
手順3 真因候補に対し、それぞれ仮説をたて検証することにより、真因か否かを判断する。
・真因の裏返しが具体的な再発防止策となる。
私はある大手企業の事業本部規模の品質改善プロジェクトチームで100件を超える品質不良の“なぜなぜ分析”を指導したことがあります。“なぜなぜ分析”の大変さも理解しながら、一方、真の原因を解明できたときの喜び、成果の豊富さ、人材育成への貢献というものを経験してきました。
なぜなぜ分析は品質不良の再発防止だけでなく、技術開発力の改善にも繋がります。
日本のモノヅクリの復権に“なぜなぜ分析”の普及が必要条件と確信しております。
日本人は論理が苦手な人が多いが、逆にいえば論理を身につければ、“なぜなぜ分析”を実行するのに最強な民族となる。トヨタが世界の冠たる企業になった原動力は現場改善力であり、その肝は“なぜなぜ分析”にあるに違いない。
70~90年代の日本民族は最強のモノヅクリ民族であった。AIに負けない“なぜなぜ分析”を普及していくことは私の晩年の日本への恩返しである。ITツールを駆使して出来るだけ多くの日本人にロジカルな“なぜなぜ分析”を伝えていこうと思う。