解析入門:小平邦彦著、岩波書店
著者は数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞を日本で2番目に受賞された大数学者。
晩年は数学教育に力を注がれた。日経新聞に掲載された“私の履歴書”をもとにした“怠け数学者の記”の本でも知られるヒューマニストでもある。
厳密な理論展開により、実数→関数→極限→微分・積分 へと展開する大学初年級向けの名著である。
ただし、受験数学と本書のような本格数学の間の溝は深く大きい。
独学でマスターするのは大変である。
本書が出版された当時と比較すると“エクセル”がそのまま代名詞となっている表計算ソフト、更に数式処理ソフト“マセマティカ”等が利用できる現在は、これらのソフトウエアを援用することにより、本名著を徹底理解できる環境が出来ている。
ただし、適切な指導者が必要なことはいうまでもない。
本書の
以上が理解出来れば、十分な数学リテラシーが身につくであろう。(参照 目次)
参考)1.2節 要約
a) 実数の定義
〇予備的確認事項
〇Dedekindによる実数の定義
・有理数の切断の定義:有理直線 $Q$ をつぎの2つの条件を満たすように空集合でない2つの部分集合 $A$と$A’$ の組を有理数の切断とよび,記号〈$A,A’$〉で表わす
(ⅰ) $r \in A$, $s \in A$,ならば, $ r \lt s$
(ⅱ)$A$に属する最大の有理数はない。すなわち、$r \in A$, ならば, $ t \gt r$ なる 有理数 $t \in A$ が存在する
定義1.1 有理数の切断を実数(real number)とよぶ。
○ 切断〈$A,A’$〉の2つの
(Ⅰ)$A’$ に属する最小の有理数はない:無理数
(Ⅱ)$A’$ に属する最小の有理数がある :有理数
b) 実数の大小
定義1.2 2つの実数 $\alpha = \langle A,A’ \rangle$,$\beta = \langle B,B’ \rangle$について,$A \subset B$ ならば $\alpha$ は $\beta$ よりも小さい、また $\beta$ は $\alpha$ よりも大きい、といい, $ \alpha \lt \beta$, $\beta \gt \alpha$ とかく
定理1.1 2つの実数 $\alpha,\beta$ の間には次の3つの関係のうちの1つ、そしてただ1つだけが成り立つ。
定理1.2 $\alpha \lt \beta,\beta \lt \gamma$ ならば $\alpha \lt \gamma$
定理1.3 任意の実数 $\alpha = \langle A,A’ \rangle$について
(1.8) $A = \{ r \in Q \mid r \lt \alpha \},$ $A’ = \{ r \in Q \mid r \geq \alpha \}$
定理1.4 任意の2つの実数 $\alpha,\beta$($\alpha \lt \beta$ )に対して $\alpha \lt r \lt \beta$ なる有理数 $r$ が無数に存在する。
○実数全体の集合を $R$ で表す。実数が大きさ( \lt )の順に並んでいると想像して、$R$ を数直線とよぶ。
$R$ を数直線というとき、実数を $R$上の点、有理数を有理点、無理数をということがある
定理1.5 自然数 $m$ が与えられたとする。このとき任意の実数 $\alpha$ に対して
$\alpha \lt \alpha \leq \alpha + \displaystyle \frac{1}{m} $ なる有理数 $\alpha$ が存在する。
c) 無理数
○循環しない無限小数は無理数である、ということ。
〇循環しない無限小数:$k.k_{1}k_{2}k_{3}\cdots k_{n}\cdots $,$k$ は整数、が与えられたとして、
$a_{n} = k.k_{1}k_{2}k_{3}\cdots k_{n} =$ $k+\displaystyle \frac{k_{1}}{10}+\displaystyle \frac{k_{2}}{10^{2}}+\cdots+\displaystyle \frac{k_{n}}{10^{n}},$ $b_{n}=a_{n}+\displaystyle \frac{k_{1}}{10^{n}},$ とおく。
(この無限小数:$k.k_{1}k_{2}k_{3}\cdots k_{n}\cdots $が実数$\alpha$ を表わすということ)
(この$k.k_{1}k_{2}k_{3}\cdots k_{n}\cdots $ が無理数であること)
○これで循環しない無限小数はすべて無理数を表わすことが証明された。
→ このことからすぐわかるように、
無理数は数直線R上到る所稠密に存在している
すなわち、任意に与えられた2つの実数 $\beta,\gamma,\beta\lt\gamma$ に対して $\beta \lt \alpha \lt \gamma$ なる無理数 $\alpha$ は無数に存在する。
d) 実数の連続性
○実数の切断の定義:
数直線 $R$ を次の条件を満たす空集合でない2つの部分集合 $A$ と $A’$ に分割したとき、$A$ $A’$ の組$\langle A,A’\rangle$を実数の切断とよぶ
定理1.6 $\langle A,A’\rangle$が実数の切断のとき、$A$ に属する最大の実数が存在するか、またが $A’$ に属する最小の 実数が存在する
○実数の連続性: この定理1.6によれば、実数の切断$\langle A,A’\rangle$については必ず $A$ と $A’$ の境目をなる実数、すなわち条件
$\rho \in A, \sigma \in A’$ ならば $\rho \leq \alpha \leq \sigma$ を満たす実数αが存在する。これが実数の連続性である。
数直線 $R$ には隙間がないのである。
・以上の命題を、集合論をベースに、厳密に証明している。受験数学しか経験のない学生には独学での理解は敷居が高すぎるように思う。これを理解するには適切な指導者が必要だが、理解できたときの喜びは何物にも代えがたい感動となるに違いない。
・数学の最良の勉強法は、優れたテキストの命題・定理・証明をただ只管(ひたすら)書写し、意自ずと通ず、というところまでやりきることである。
ただし、この方法の欠点は何回書き写しても分からないことが時にあり、その解決法はチューターに聞くしかない、ということである。
いわゆる師匠/弟子の関係が重要で、優れた教師、ただし凡人(天才はよき指導者になりえない)が必要である。